
大丈夫か、この人。
やばい人に声をかけてしまったかもしれん。
という気持ちは顔に出たのだと思う。
その人は可笑しそうに笑った。

出来たての販促品なんです。私にとって、特別な。
あなたみたいな、見て見ぬふりが出来ない方に、使ってもらえたら嬉しいから。
その人が私の手にある手帳を見る目は確かに、とても大切なものを見る優しい目だった。
自分の手元から離れたものの先行きを、見るような。
この人はもう、この手帳を受け取る気はないらしい。
……さすがに使いかけじゃないよね?
思わず手の中の手帳に目をやり、
そして視線を上げたときにはもう、その人はいなかった。
まぁ……頂く、か?
手帳とか文房具の類が好きで目がなく、見たことのない手帳につい興味がそそられてしまった。
販促品……あの人が仕事で作った、非売品でそこその数を作ったもの?
販促というからには、サービス名なり商品の使用体験とか、楽しく謳ってるのかね……
そのまま手帳をかばんに入れ、でも家につく頃には、
”シャワー面倒だな”
“明日の準備面倒だな”
と、日常に脳みそは占められて、手帳は開かぬまま、眠った。